食べてしまいやすいもの
- 異物カテゴリ:
- 傷つけ・詰まる異物
- 危険度:
- A
林檎(リンゴ)
林檎(リンゴ)の特徴・誤飲時のリスク
人間が当たり前に食べているものが、実は動物たちにとっては有害という事例は沢山あり、タマネギやチョコレート等は有名ですね。
ではリンゴはどうでしょうか?
「えっ!リンゴも中毒を起こすの!?」
いいえ、起こしません。
トウモロコシと同様、リンゴは中毒物質としてではなく、詰まってしまう物理的異物として実は非常に危険なのです。
しかしトウモロコシとは大きく異なる点が二つあります。
一つは好発種(発生することが多い動物の種類)です。トウモロコシの場合は中~大型犬が多いですが、リンゴの場合はほぼ小型犬、超小型犬です。
もう一つは詰まってしまう場所です。トウモロコシの場合、その芯が腸で詰まって腸閉塞を起こすことが多いですが、リンゴが腸閉塞を起こすことはほぼありません。なぜならトウモロコシの芯と違い、胃と腸でちゃんと消化されるからです。
消化されるなら詰まらないんじゃないの?
と思われるでしょうが、その通りです。ちゃんと消化さえされれば詰まることはありません。
ではなぜ詰まるか?
どこで詰まるか?
それは食道です。
本格的に消化が始まる胃よりも手前。口から胃までの通り道で詰まってしまうことが多く、食道にはほとんど消化能力は無いので、待っていれば消化されることは期待できません。
リンゴが食道で詰まる症例は夜間救急に多く来院します。ほとんどはオーナー様が食べていてポロっと落としてしまったら、足元にいたワンちゃんがパクリと丸飲みというパターンか、「お前も食べる?」と一かけら与えたら、思いのほか大きい塊のまま噛まずに丸飲みしてしまった!というパターンのどちらかです。
丸飲みした後どんな症状が起こるか?
大きな塊がのどを通過する時に物凄く苦しいので、吐き出そうとする仕草を何度も繰り返したり、白い泡を吐いてオエオエと苦しそうな様子になることがあります。この状態がある程度の時間続いている場合、ほとんどのオーナー様は慌てて動物病院に連れて来られます。これはもちろん正しい判断です。
しかし問題は上記の苦し気な症状が全くない。またはあったが、すぐに治まってしまったという場合です。さっきは激しく苦しがっていたが、今はちょっとおとなしくて唾を飲み込もうとするような動作があるぐらい。だからちょっと様子を見よう。
この判断は非常に危険です。
この時何が起こっているかというと、リンゴの塊が食道頸部から食道胸部に移動しただけで、食道で停滞していることに何も変わりがない可能性があります。
食道とは口から入れた食べ物が通過してお腹にある胃まで到達する細長い通り道の総称ですが、前半部分である喉のあたりを食道頸部と言い、後半に当たる心臓や肺のすぐ横を通って胃に落ちるまでの部分を食道胸部と言います。
前半の食道頸部で詰まると非常に苦しがる場合が多いですが、そこを通り過ぎて食道胸部に到達すると症状は途端に軽くなります。しかし見た目軽い症状だから放っておいても大丈夫なわけではありません。食道で詰まっている時間が長ければ長いほど、その場所で炎症は悪化し食道粘膜にダメージが加算されていきます。
そこから起こりうる最悪の事態は食道に穴が空いてしまい、心臓や肺が収まっている胸腔という空間と通じてしまう食道穿孔という状態で、この状態になってしまうと生命維持に関わる非常に緊急性の高い状態と言えます。
またもし食道に穴が空いてしまう前に詰まりを除去できたとしても、その部分の炎症が強い場合は要注意です。詰まりが除去されれば炎症は治っていきますが、その過程で食道の壁が今までより厚くなり、結果的にご飯が通過できなくなるほど狭くなってしまう食道狭窄に後々なることもあります。
そうならないためにも食道での詰まりはリンゴに限らずとも一刻も早く解除することが重要なのです。
林檎(リンゴ)誤飲時の主な処置
食道に何かが詰まっているという状況で内科的な治療、つまり飲み薬や注射でその事態が改善する可能性はほぼゼロです。物理的に詰まりの除去を試みるしかありません。
強いて言えば、催吐剤を用いた吐かせる処置をした結果、胃から逆流してくる吐物に押し流されるように、詰まったリンゴも吐き出される可能性はゼロではありませんが、食道にギチギチに詰まっている場合はそれも期待できません。また食道にリンゴに限らず異物があれば、催吐処置をしなくても自発的に嘔吐の反射が引き起こされることが多く、それでも吐き出せないワンちゃんに催吐剤で強制的に嘔吐させれば吐き出されるかというと、可能性は極めて低いでしょう。
さらに言うと、食道で詰まっているものがリンゴの場合、実は絶妙に困難さが増します。
何が絶妙かというとそれはリンゴの固さです。
簡単には先に進まない程度に食道に詰まってしまう固さはあるのに、内視鏡を挿入して掴む器具で引っ張り出そうとすると、シャリッと崩れて小さくちぎれてしまい、掴んでも掴んでも、逃げてしまう軟らかさもあるからです。
内科的治療で改善は望めず、催吐処置も望みは薄い。内視鏡を入れても掴めない。では最終手段は外科手術となりますが、この場合食道の位置的に開腹手術ではなく開胸手術となります。どちらも外科手術ですが、ハードルの高さにはかなり差があり、開腹して胃を切って異物を取り出してくれる動物病院は日本中に山ほどありますが、開胸して食道切開まで対応してくれる技術と設備(と度胸も)を持った病院となるとその数はかなり限られますし、現実的には様々な理由でそこまで踏み切れないことも少なくないでしょう。
最終手段とも言える外科手術での対応も望みが薄いとなるといよいよ成す術が無いのでしょうか?
いえいえ、そんなことはありません。この場合にやはり最善の策は内視鏡での対応となります。
先ほど内視鏡で掴めないと書きましたが、リンゴが食道で詰まっている場合、内視鏡器具で掴んで引っ張り出すことはかなり困難です。しかし内視鏡の先端でそのまま押し込むことは可能です。食道での詰まり具合が軽度の場合は軽く内視鏡で押し込んでやるだけで胃に落ちていきます。
プラスティックや金属の異物ならそれが食道から胃に移動しても引き続き問題ありですが、リンゴの場合はそれで解決です。なぜなら胃まで落ちれば後は勝手に消化されるからです。
しかし一番問題なのは食道での詰まり具合が重度の場合です。この場合は内視鏡で押しても胃の入り口を通過してくれません。もちろん掴んで引っ張ることも叶いません。さて、どうしたらよいか?
このようなケースは非常に珍しいことのようですが、筆者は夜間救急勤務時に何十例も遭遇しています。その場合の対応の一例として参考までに下記コラムにも眼を通して頂けたらと思います。
※上記コラム内での対応が絶対唯一の解決法ということではなく、あくまで一例です。動物の大きさ、リンゴの大きさや形状など様々なファクターで事態は異なります。そこは誤解のないようお願いします。