誤飲の処置法

  • 病院で行う誤飲の処置

    飲み込んでしまった異物によって対応は変わりますが、できる処置は大きく分けて3つしかありません。
    物理的異物の場合、1.吐かせる 2.内視鏡で摘出 3.手術でお腹を開いて摘出。
    中毒物の場合、1.吐かせる 2.点滴や解毒剤などの内科治療 3.胃洗浄です。
    具体的な処置を知ることで、誤飲予防への意識を高めてください。
  • 飲んだ時間・種類・量の情報が
    重要な
    「中毒を起こす異物」

    中毒物を誤飲した場合に特に必要な情報は誤飲したものが何で、その量はどのぐらいで、誤飲してからどのぐらいの時間が経過したか?です。例えばですが、既にかなりの時間が経過して胃を通過して腸で吸収されてしまっている可能性が高い状況で無理矢理吐かせる処置をされてもほとんど効果は得られないし、動物たちは無駄に吐かされて苦しいだけです。この場合は既に吸収されて血行に乗ってしまった中毒物をおしっこから排泄させるのを促すために点滴治療をしたほうが効果的です。これはあくまで例ですが、情報があればあるほど正確な対応、無駄の無い対応の精度は高まっていくのです。
  • 中毒を起こす異物の検査

    基本となるX線検査、炎症反応を調べる血液検査

    基本的に誤飲してしまった場合に、それが中毒物であれ物理的異物であれ、X線検査による状態の把握は欠かすことは出来ません。また中毒物の場合はそれが吸収されて臓器にダメージを与えていないかを判定するために血液検査も必須と言ってよいでしょう。中毒物を誤飲してしまって最もダメージが危惧される臓器は解毒を担当する臓器である肝臓です。また中毒物によっては腎毒性と言って腎臓にダメージを与える類のものも少なくありません。また刺激性の薬物の場合は胃や腸の粘膜に激しい炎症を起こさせることもあるため、炎症反応を測定する血液検査数値も重症度判定に重要です。
  • 中毒を起こす異物の具体的な処置

    吐かせる

    中毒物は基本的に腸の粘膜から吸収されて血行に乗って身体の各所に運ばれてダメージを引き起こすものがほとんどです。そのため腸で吸収される前にどれだけ回収できるかが、症状を発生させない勝負の別れめとなります。最も代表的な中毒物回収の処置は吐かせること。これを「催吐(さいと)処置」と言います。
    どんなものでも飲み込んで食道から胃を通過して一直線に腸に突入することはありません。必ず胃でいったん停滞してから徐々に腸に流れていきます。その腸に流れ出る前の段階であれば催吐処置が有効です。昭和の時代は無理やり塩を飲ませたり、硫酸銅という胃粘膜に刺激のある薬剤を飲ませて強引に吐かせる荒療治的側面がありましたが、現在はもっと短時間で効果的に吐かせる処置方法が一般化しています。
  • 胃洗浄

    上記催吐処置を実施しても吐いてくれない場合や、吐いても充分ではない場合に胃洗浄が検討されます。これは読んで字のごとく、胃の中を適温の水でジャブジャブ洗うことです。具体的には胃の中に水を注入する管を口、または鼻から挿入してその管から水を流しこみ、同じくその管から水を吸引して回収。これを何度も繰り返すことで、胃の中で停滞している中毒物が吸収される前に回収されることを目的とします。
    非常に効果的な方法ですが、催吐処置よりもやや手間で、当然動物たちは口や鼻から管を胃まで通されることを嫌がります。場合によっては沈静や麻酔処置が必要になるため、そのリスクを負ってまで実施すべき処置かどうかは、中毒物の危険度や量などから獣医師が総合的に判断することになります。
  • 薬剤投与(点滴、解毒剤、吸着剤など)

    全ての中毒物にその害を劇的に無効にしてくれる解毒剤が存在する訳ではありませんが、一部の中毒物にはそれに特化した解毒剤が存在します。例えば地下鉄サリン事件の際に「PAM」という解毒剤が活躍しました。サリンなんて、まさか・・・とお思いになるかもしれませんが、サリンは有機リン剤という分類に属し、「PAM」は有機リン剤に対する解毒剤なのです。この有機リン剤という系統の薬剤は一部の農薬などにも使われているため、実は思ったよりも身近に存在し得るものなのです。こういった専門性の高い治療になると自宅ではどうすることもできません。また解毒剤はどこの動物病院でも一通り揃っているかというとそんなこともありません。救急対応に強い動物病院を平時から把握しておくようにしましょう。
  • 一刻も早い状態確認が必要な
    「傷つけ・詰まる異物」

    傷つけ・詰まる類の物理的異物も早く対応できればそれに越したことはありません。中毒物の項でもお伝えした通り、基本的に誤飲した異物はどんなものでも口から食道を通過し、胃でいったん停滞します。この胃で停滞している間に対応できるか、またはそのその先の腸まで入り込んでしまっているかで、できる対応の選択肢に大きな差が生じます。吐かせる処置や内視鏡(胃カメラ)による摘出処置は胃に停滞していれば可能ですが、その先にいってしまっている場合はほぼ不可能で、最終手段である開腹手術以外に選択肢が無くなってしまうことにもなりかねません。
  • 傷つけ・詰まる異物の検査

    レントゲン検査

    異物誤飲時に欠かせない検査がX線検査です。金属製の異物などはクッキリとお腹の中にある像が描出されます。しかし紙、ビニール、プラスティック、布などの材質で出来た異物の場合、X線検査ではハッキリ写らないことも珍しくありません。ではその場合X線検査は意味が無いか? いえいえ、そんなことはありません。異物自体が写らなくても、胃の中に食べ物が残っているかどうかで内視鏡を入れられるかどうかの判定ができたり、腸に異常なガスが溜まっていればその後ろに異物が隠れている可能性を予測したり、さらにはバリウムなどの造影剤を飲ませて時間経過に沿って撮影することで、腸の流れが正常かどうかを判定したり・・・。X線検査は異物誤飲時に有益な情報を多数提供してくれる欠かすことのできない検査なのです。
  • エコー検査

    何か異物を飲み込んでしまった時にX線検査をしてもらうイメージを持っている方は多いようですが、エコー(超音波)検査に有効なイメージを持っているオーナー様はあまり多くありません。
    X線検査はとても有効な検査ですが、放射線が通過してしまいX線検査では写らない類の異物も少なくありません。そんな時でも音の反響で画像を描出するエコー検査なら検出できる場面は実は珍しくありません。またX線検査は静止画ですが、エコー検査はエコーをお腹に当てている間、動画で腸の動きを観察できるため、そこから得られる情報はX線検査とはまた違った角度から価値のあるものとなります。 またX線検査と同様に動物たちが痛みを感じたり麻酔をかけたりする必要無く検査が実施できることもエコー検査の強みと言えるでしょう。

  • 内視鏡検査

    内視鏡はお口またはお尻から細長いCCDカメラを挿入して胃腸の内側を探索する検査機器です。X線検査やエコー検査ではボンヤリと写る陰影が異物かな? それともただの未消化のフードかな? 等と獣医さんでも迷いが生じることが良くありますが、内視鏡ではリアルタイムの鮮明な動画としてハッキリと写るので遥かにハッキリと異物を確認することが可能です。しかも身体にメスを入れて開腹をせずにそれが出来るのだから大変に優れた検査機器といえるでしょう。
    そんな内視鏡の弱点を挙げるとすると、お口から入れても、お尻から入れても、どちらから入れても届かない腸の領域が一部存在することです。そこで異物が悪さをしている場合はどうすることも出来ません。そのあたりを判別するためにX線検査やエコー検査と組み合わせて内視鏡検査の適・不適が判断されます。

  • ■検査と除去を同時に行うことができる最適なツール

    内視鏡は基本的に検査器具です。胃や腸の内側の状態をメスを入れることなく観察することができます。異物誤飲の疑いがある場合は、それが本当にあるのかどうか?X線検査では写らない異物でも動画でクッキリと見つけ出してくれる優れた検査機器なのです。そして、ただ単に異物の有無を判定してくれるだけではないのが内視鏡の凄いところで、もし異物を見つけたら、内視鏡のカメラの脇から遠隔操作でマジックハンドのように掴む器具やカウボーイの投げ縄のような器具、虫取り網のような器具などを操り、異物を捕まえてそのまま摘出までしてくれるのです。

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  • 傷つけ・詰まる異物の具体的な処置

    吐かせる

    誤飲してまだ間もない場合、吐かせる処置が有効になります。しかしなんでも吐かせれば良い訳ではありません。形状が鋭利な物を気安く吐かせると、胃から食道を逆流するときに粘膜に刺さったり、傷つけてしまったりするリスクが生じます。吐かせても大丈夫な物なのかどうか、獣医師による慎重な判定は欠かすことができません。
    また吐かせる処置の弱点はその不確実性です。吐かせる薬をいくら投与しても全然吐かない体質の動物は一定数います。また投与して何度も動物が嘔吐しているのに異物は吐き出さないこともあります。この場合、異物は胃の中にあるけど胃の入り口で閊えて出てこないのか? または既にその先の腸の奥に流れてしまったから出てこないのか? はたまた実は誤飲したと思い込んだだけで、異物など最初から存在しないのか? 吐かせる処置でそれを判別することは出来ません。 
  • 内視鏡による摘出

    内視鏡の強みはリアルタイムで異物の存在を画像で確認でき、その画像を見ながら異物を掴んで引っ張り出すことができ、しかもお腹にメスをいれなくて良いことです。しかし内視鏡ならどんな異物でも必ず摘出できるかというとそんなことはありません。胃の中に巨大な布の塊を見つけた場合に、それを見つけて器具を使って掴むところまでは熟練した獣医師なら3分もかかりません。しかしせっかく掴んだ異物をいざ引っ張りだそうとすると、胃の入り口の狭くなっている部分を通過できず、どうしても引き抜くことができないこともあります。残念ながらそういう場合は開腹手術に移行するしかありません。
    またX線検査でクッキリ腸内の異物が写っているのに、口から挿入してもお尻から挿入しても届かない位置にある場合も成す術がありません。
  • 開腹手術による摘出

    開腹手術は異物誤飲を解決するための最終手段と言っていいでしょう。理論的にはこの処置で摘出できない異物はありません。開腹してお腹の中の異物に直接アプローチするし、もし異物が大きくて簡単に引き出せない場合は、メスで開腹範囲を広げればよいだけなので、摘出できない異物は無いと断言しても良いでしょう。
    しかし当然デメリットがあります。それは動物のダメージが一番大きいということです。胃や腸にメスを入れた場合、縫った傷がしっかり塞がるまで絶食を強いられます。また腸内細菌が腹腔内にもれて腹膜炎を起こすリスクもあります。当然ですが動物たちが感じる痛みも他のどの処置よりも強いでしょう。動物とそのオーナーにとっては最も回避したい処置でもあります。
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