食べてしまいやすいもの
- 異物カテゴリ:
- 傷つけ・詰まる異物
- 危険度:
- C
トイレシート

トイレシートの特徴・誤飲時のリスク
昔と違いワンちゃんもニャンちゃんも室内飼育が当たり前になってきた中で、欠かせないアイテムがトイレシートです。
色々なメーカーが販売していますが、どれも構造に大差はありません。
基本的に下記三層構造です。
・最下層は床への浸透を妨げるポリ塩化ビニールの防水シート層
・尿を吸着する真ん中の高吸水性ポリマー層
・ソフトな肌当たりを演出する表面の不織布層
そしてどういう訳か、一部のワンちゃん、ニャンちゃんはこれをビリビリに破く遊びが大好きです。ビリビリにするだけならいいのですが、そのまま飲み込んでしまうケースは後を絶たず、昔は無かった現代の誤飲物質代表選手の一角を占める存在となっています。
このトイレシートを飲み込むとどんなことが起こるか?
表面の不織布層は水分を含むと小さく縮んでしまいます。誤飲時は涎や胃酸に晒されて乾いたままではいられないので、よほどの大量誤飲でなければ無害と捉えて良いでしょう。
高吸水性ポリマー層は元々は塩粒のような粉末ですが、物凄い量の水分を吸着してゲル化し、凄まじく膨張します。
一番下のポリ塩化ビニール層は単純にビニールですから不織布とは違い水に濡れて縮んだり溶けたりすることはないし、胃液で消化されることもありません。
上記からお判りいただけるように、三層の材質のうちリスクがあるのは中間層の高吸収性ポリマーと最下層のポリ塩化ビニールです。しかしそれらが単品で悪さをすることはあまりありません。ペラペラのビニールの切れ端を少しぐらい飲み込んでも大した問題は無いし、高吸収ポリマーもゲルですから、胃や腸に刺さったりもしないし流動性もあるので、大量でなければ少しずつ便と一緒に排泄されることも期待できます。
しかしこれらの材質がタッグを組んでしまうと胃の中で膨張したうえに消化もされない非常にマズい塊が生じてしまいます。
つまり、トイレシートあるいは同じような構造の使い捨てオムツなどを大きな破片で、または丸ごと飲み込んでしまった場合は非常に危険ということです。
オムツ丸ごと一つ!?まさか!と思う方もいるかと思います。さすがにチワワやトイプードルなどの小型犬でそのような事例はほぼありませんが、大型犬クラスになると珍しいことではありません。筆者も過去に何度も胃液を吸ってさらに巨大に膨れ上がったオムツやトイレシートを内視鏡で摘出した経験があります。特に赤ちゃんの便が付着した使用済のオムツなどは要注意です。そのにおいに惹かれて飲み込んでしまう事例を筆者は多く経験しています。
腸に入り込めば腸閉塞を起こし、胃で停滞していれば激しく頻回の嘔吐を引き起こす可能性があり大変危険です。
※ただし高吸収性ポリマーは化学物質ですが体内に吸収されて毒性を発揮することはほぼありませんので、中毒物質という観点では無害です。
トイレシート誤飲時の主な処置
誤飲時の対応は丸飲みしたか、噛みちぎった破片を食べたかで変わってきます。
丸飲みの場合に吐かせる処置を試してみるのは間違いではありません。しかし、ただでさえ大きいのに胃の中で膨張するため、大き過ぎて吐けないことが珍しくありません。何度か吐かせてみて吐き出せない場合は内視鏡での摘出になりますが、内視鏡の技術が無い病院では開腹手術しか策は無くなります。
いっぽう噛みちぎってその破片を食べてしまった場合は、その量により危険度は大きく異なります。ビリビリに噛みちぎられた破片をかき集めてパズルのように組み合わせてみましょう。ほとんどのピースが揃うが隅っこがちょっとだけ足りない位の場合は大きな問題になる可能性は低いでしょう。
しかしグチャグチャになっていてパズル組みはとても出来ないという場合も多く、どれぐらい誤飲しているのか把握が困難な場合は、やはり動物病院を受診してX線検査をしてもらったほうが良いと思います。
X線検査でトイレシートが写るのかというと、小さな破片程度だとほぼ判りません。直前に食餌を食べてしまっている場合、胃の中に食餌だけあるのか? トイレシートの破片もあるのか? を見極めるのも困難です。しかし丸飲みした場合や、高吸収ポリマーが大膨張して胃の中を占拠しているような場合は、その陰影を確認することが可能ですので緊急性確認という意味では大変意義があります。
胃の中に膨張した高吸収ポリマーの存在が確認できた場合、やはり吐かせる処置を試みてみることは有効ですが、水を吸ってぼってりと重く胃の底に沈んでいる塊は意外と吐き出せない場合が珍しくありません。
シート丸飲みの場合は内視鏡を使ってビニールの部位を掴み、口から引きずり出すことが可能ですが、ゲル状の成分だけの場合は掴むことができず内視鏡も有効とは言えません。
それでは胃洗浄や開腹手術をしてまで摘出すべきか?
ゲル状物ですから、そんなことしなくても徐々に便と一緒に排泄されることは期待できないかというと期待は出来ます。しかしあまりに多量の場合は全てが便と一緒に排泄されるのに長時間を要し、その間、頻回の嘔吐が続くようであれば待っていて良いとは言い切れません。
このあたりの微妙な判断は非常に難しい部分であり、自己判断せず、経験豊富な獣医師に相談することをお勧めします。