誤飲コラム

ご質問にお答えします。(動物病院間の内視鏡技術格差について)

このサイトの監修を任されて、色々な情報を発信するようになってから異物誤飲に関して質問される機会が増えましたので、頂いたご質問を順に紹介して、ここでお答えしていこうと思います。

 

 

まず最初の質問はこちら

「ホームページで内視鏡完備と謳っている動物病院ならどこも一緒?」

「内視鏡の性能や技術は動物病院によってどれぐらい違うんですか?」

 

 

このコラムの中で私は「いざという時のために内視鏡のある近所の動物病院を把握しておくべき」という旨を何度もお伝えしています。
内視鏡さえあれば開腹手術にならずに済んだのにという事態を避けるためです。
これを読んだオーナーの方からの質問なのですが、最初にいきなり回答します。

 

 

どこも一緒ではありません。動物病院間の内視鏡技術格差は天と地ほどあります。

 

 

 

以下その理由と実例的エピソードを紹介します。

 

 

最初に私の思い出話です。

私が夜間救急である程度経験を積んだ頃、内視鏡のドライラボに参加する機会を得ました。
ドライラボとは本物の内視鏡と胃や腸の模型を使って講師に実際の手技を教えて頂く、実習形式のセミナーのことです。

 

その時点で私は夜な夜な内視鏡症例をたくさん担当していたので経験は豊富でしたが、誰に教わった訳でもない救急現場で身に着けた独学の技術だったので自分の現在地が判らず、フレットのどこがドでどこがレか判らないけどイングヴェイ・マルムスティーンなら全曲弾けますよと得意気に披露したら講師に鼻で笑われるという悪夢に毎夜悩まされながら緊張してその日を迎えました。

しかし実際に参加してみると講師のある有名な大先生に「君、上手だね。特に教えることないな。」と言われて調子に乗ったのが私が内視鏡に力を入れて取り組もうと思った切っ掛けなのですが、そのへんの自慢話はまた別の機会に。

 

その時に同じグループになった開業医の先生と話をした内容が今でも忘れられません。
とても感じの良い気さくな先生でしたが、曰く

「いや~うちも一応内視鏡あるんだけどさ、異物誤飲なんてそんなにしょっちゅう来ないから使う機会無くてさ。それでたまに来ると、普段使ってないから上手にできないわけよ。それでも一応やってみるんだけど、結局摘出できないから開腹(手術)するってパターンばっかりで、これ時間の無駄だし内視鏡持ってる意味ないなと思ってさ」みたいな話をしてくれました。

 

 

この話はとても象徴的だと思うのですが、どこの動物病院でも毎日何件も異物誤飲症例が飛び込んでくるわけではありません。
むしろよほどの大病院でなければたまにしか来ません。
たまにしか来ないうえに、来ても必ず内視鏡が必要な訳ではありません。
吐かせて解決!内視鏡の出番なし!というパターンのほうがずっと多いです。
要するに日本中ほとんどの動物病院で内視鏡が活躍する機会はたま~にしかないということです。

その多くない機会のためにわざわざ高額の内視鏡設備を購入する動物病院なんてそんなに多くないかというと、そうでもありません。
開業時には無くても、開業してある程度売り上げもあがり、設備投資の余裕も出てきたタイミングで導入する動物病院は今ではそんなに珍しくありません。

 

 

ここが人間の病院と動物病院の大きく違うところで、人間の病院は診療科が明確にわかれているので、消化器科の病院が消化器内視鏡を設備しているのは全然珍しいことじゃないし、そこには内視鏡検査を望む患者が集まってきます。逆に、例えば眼科の病院が儲かっているからといって内視鏡を導入することは無いでしょう。

 

しかし街の動物病院のほとんどは基本的に全科診療です。
消化器も、整形も、歯も、皮膚も、神経も、腫瘍も、なんでも診るのが当たり前。
なんでも来院するということは内視鏡を必要とする症例も来院するけど、来院する確率は人間の専科病院よりはるかに薄まります。

薄まるけど「嗚呼!こんな時に内視鏡があれば!」という症例はたま~に来院します。
だから開業獣医師が診療を頑張って病院の経営も軌道に乗って設備投資費に余裕が出て来ると

いざという時のために内視鏡も備えておくか

と考えることは間違ってもいないし珍しいことでもありません。

 

 

さて、せっかく内視鏡を導入したら普通はホームページ等に掲載して宣伝します。
その時に若葉マークと一緒に「内視鏡導入したて!まだ経験わずか!」とド正直に謳う動物病院はたぶんありません。
単純に「内視鏡完備」と表示されるでしょう。

しかし内視鏡完備とホームページに掲載したその日から異物誤飲症例がバンバン来院するわけがありません。
つまり内視鏡は持っているけど、たま~にしか使う機会は無いし、経験も乏しいという動物病院は世の中に沢山あるということです。

 

 

さてさて、たま~にしか使用機会が無いのに技術を高め維持することが物凄く困難なことは想像に難くないと思います。
あのイチローですら晩年代打での出場が多くなり、全盛期の打率を維持することは困難でした。

それでも貴重な休診日に大学病院の消化器科に研修に行ったりして、頑張って技術の研鑽に励んでいる先生もきっといると思います。
しかしその一方で所有しているだけでほとんど操作する機会の無い動物病院も存在します。

 

ついでに言えば、私は内視鏡の技術に自信があるので
さあ内視鏡で決着つけちゃいましょう!
とどんどんオーナー様に強気で推奨しますし
自信があるから私の病院のホームページでも大きくページを割いています。
なのでそれを見た患者様がどんどん来院します。
どんどん来院すれば使用機会が増します。
より経験が増し、更に自信がつき結果も出せます。
好循環です。

 

逆に内視鏡は設備してみたものの技術に自信が無くて、「内視鏡でこの異物は摘出できるかもしれないけど、できないかもしれなくて、できなかった場合は開腹になっちゃうけど、でももしかしたら摘出できるかもしれないし’&?%($%?>>$#()・・・」みたいに自信なさげにムニャムニャと曖昧なインフォームをしてもオーナー様から信頼されないし症例は増えません。
増えなければ技術も経験値も低いままです。
経験値が低いからまたムニャムニャ言う・・・という無限悪循環に陥っていきます。

 

本音では技術に自信が無い。でもオーナー様にがっかりされたくない。病院の経営のこともある。そんな岐路に立たされた経験のある獣医師は決して少なくない筈です。そんな時に「どうしても開腹手術を回避したかったら、もっと内視鏡の上手な別の病院に行きますか?」とあなたのかかりつけ医は誠実に言ってくれるでしょうか?

 

例えばこんな場面を想像してみて下さい。

「当院には内視鏡がありますから」

と言うので異物誤飲した愛するワンちゃんをお任せして麻酔をかけてもらうことにしたとします。
しかし麻酔中の獣医師から電話がかかってきて

「想定より異物が掴みにくく内視鏡では摘出できない。麻酔をかけているのでこのまま開腹に移行しようと思います。よろしいですか?」

と言われた時に

「いやいや、ちょっと待ってよ」

とあなたは言えますか?

「あ、はい・・・。」

と同意してしまいそうではないですか?

だって専門家である獣医師がそう言ってるのなら、ああそうなのかと思ってしまっても仕方がありません。

その異物が本当に内視鏡では摘出困難なものなのか?
もしかしたら内視鏡の技術の高い獣医師なら摘出できるのではないか?
それを正確に見極める術をあなたは恐らく持っていません。

ではどうしたら良いでしょうか?

 

次回は内視鏡の技術を持っている動物病院とそうでない動物病院の見分け方について考察したいと思います。

 

 

 

 

執筆者プロフィール

港北どうぶつ病院 院長

Hayato Arai

資格・所属

経歴

  • 麻布大学卒業

  • 平成14年4月〜

    横浜市内動物病院勤務

  • 平成17年1月〜

    横浜夜間動物病院(現・DVMsどうぶつ医療センター横浜)にて救急医療に従事

  • 平成20年3月〜

    横浜夜間動物病院 院長就任

  • 平成25年2月

    開業準備のため退職

  • 平成27年~

    港北どうぶつ病院 開業

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