誤飲コラム

ここは催吐のサイトでもありますので

私は内視鏡操作が好きなので異物誤飲サイトという名目をいいことに内視鏡の話題ばかりをここで書いてしまっていますが、異物誤飲への対処はなにも内視鏡だけではありません。

最終手段としては開腹手術が出てくるのですが、開腹でも内視鏡でもなく、もっと日本中どこの動物病院でも当たり前に日々行われている異物誤飲時の対応があります。

それはいわゆる催吐処置。

吐かせることです。

 

今日は催吐処置について書いてみます。

 

 

催吐処置のメリットは処置が比較的手軽にできることです。

内視鏡や開腹手術は誤飲した異物を摘出する確実な手段ですが全身麻酔が必須です。

全身麻酔をかける場合、診察中にそのまま即実施というわけにはなかなかいきません。

準備や麻酔前検査なども必要になり、なんだかんだと一日がかりで、開腹手術なら入院治療も必要になります。

 

それに比べて催吐処置は麻酔の必要がありません。

私見を書かせてもらうと、よほど重い持病をもっている動物でなければ催吐処置より内視鏡のほうがずっと安全で確実なのですが、多くのオーナー様は「全身麻酔=危険=怖い」という印象が強いようで、麻酔のいらない催吐処置はオーナー様にとっての心理的ハードルもずっと低いように見受けられます。

 

ちなみに他の動物病院がどうしているかは判りませんが

私の病院の場合だと混雑している時や人員が足りない時でなければ

「じゃ、今から吐かせましょう」

と言って、なるべくオーナー様の目の前で催吐処置を実施するようにしています。

 

 

オーナー様の目の前で処置をおこなう理由は二つあります。

一つは、奥に連れていかれて吐かされるって、どんな酷いことされちゃうんだろう!?

とオーナー様が不安に思われることを避けるためです。

不安は不信に繋がります。

そういう可能性を出来るだけ回避したいからです。

(と言いつつ、最近は診察がバタバタしていて目の前で吐かせることができないことが増えてしまっています。すいません。)

 

 

もう一つの理由はバカバカしい話ですが、奥の処置室で吐かせて、見事に異物を吐いてくれて、「ほら!出ましたよ!」と待機しているオーナー様にお見せしたら

そんなものを食べさせた覚えは無い。

本当にこの子が吐いたのか?

証拠は?

お前らがあらかじめ用意していたんじゃないのか?

と難癖をつけられたことがあるからです。

 

 

もう本当に目が点ですよ・・・。

 

こういったクレーマーを相手に問答の応酬を繰り返す。

これ以上にバカげた時間は他に無いと思っているので、それを回避する意味合いもあります。

 

 

 

 

逆に、催吐処置の一番のデメリットは不確実性です。

 

不確実性にはいくつかの意味があります。

まず一つは、催吐剤を投与したからといって、全ての動物が100%吐く訳ではないという意味の不確実性。

ちなみに私の病院での催吐成功率は

犬:約95%

猫:約70%

です。

他の動物病院の打率は知りませんが、一般的な動物病院よりはるかに多くの異物誤飲症例が来院するので、催吐処置を実施する機会も非常に多く、ノウハウの蓄積もあるので、決して低いほうではないと思います。

それでも100%ではありません。

これも他の動物病院がどうなのかは知りませんが、私の病院に関しては正直に記載します。催吐処置を施したけど動物が吐かなかったからお代はいりませんという対応はしていません。ちゃんと請求させて頂いています。結果が出なくてガッカリするオーナー様のお気持ちはもちろん判りますが、手間とスタッフの動員と薬剤の使用と判断をしている訳ですから、そこはご理解頂くしかありません。

 

 

要するに身も蓋もない言い方をすると

催吐処置の費用だけ取られたけど、吐かず、何も解決しませんでした。

という事態があり得るということです。

 

 

不確実性にはもう一つ意味があります。

 

見事に吐いてくれたけど胃液だけで、肝心の異物は出てきませんでした。という場合もあります。

これも吐かせてみないと判りません。不確実です。

不確実ですが、例えば「X線検査で胃の中にクッキリ写っているコインを吐かせてみたが吐かなかった」という場合。

吐かなかったことは残念ですが、こういう場合はまだマシです。

胃にあることは間違いないのだから、吐かなければ次にどういう対応をすれば良いのかが明確だからです。

明確なので、オーナー様もほとんどの場合納得してくれます。

 

 

問題は以下のような場合です。

「散歩中に草むらで何かを食べたように見えたけど、ハッキリ判らない。」

「吐いている。そういえば昨夜ゴミ箱を漁ってクチャクチャと何かを噛んでいた気がする。」

「ラップに包んでいた牛肉が見当たらない。食べた瞬間を見たわけではないが盗食したかも。」

 

 

こんな感じの訴えで来院される方は非常に多いです。

X線検査をしてもコインのように明確には写らないし、胃の中にぼんやり写っている物がさっき食べたフードなのか、ラップされた牛肉なのか見分けをつけるのは困難な場合も珍しくありません。

でも、怪しいから吐かせてみることにします。

催吐処置実施!

オエっと吐いてくれましたが、胃液と数時間前に食べたフードしか出てきません。

問題の異物はどこにも見当たらない。

 

 

こんなとき不確実です。

 

何が不確実かというと

胃の中に異物は存在するけど、それは吐き出せなかった。

なのか

もう異物は胃を通り過ぎて腸の奥まで進んじゃったから出て来なかった。

なのか

実は異物を飲み込んだとオーナー様が思い込んでいるだけで、そもそも異物なんか体内のどこにも存在しないから出て来なかった。

なのか

 

それは判りません。

ただ異物を吐き出さなかった。という寒い事実だけを突き付けられます。

 

ここから先の展開は色々です。

オーナー様が「絶対に飲み込んでいる!」と確信を持って仰るのであれば、内視鏡や開腹手術で追い求めるのか?

あるいは自然に便と一緒に排泄される可能性に賭けてただ待つのか?

そのあたりは飲み込んだ(と思われる)異物の形状や量、時間、動物の体格など様々な要素を加味しての相談となりますが、なんせあるのか無いのかもハッキリしないので手探り状態であり、不安も払拭しきれません。

 

 

 

 

催吐処置のデメリットである不確実性についてまとめると

明確に異物が胃の中にあると判っている時、催吐処置は非常に有効な手段。

 

問題は異物の存在自体が不確実な場合。

 

吐かせて出てきたとしても、それで全部出たのかどうか判らない。

吐かせても出てこなかった場合、吐き出せなかったのか?

それとも、そもそも無いのか?

そこは何も判別されないし、そもそも無いかもしれないのに次の手段に移行すべきかも非常に悩ましい状況が継続してしまい解決に至らない。

それがデメリットです。

 

 

 

 

そんなとき、催吐処置とは異なりある意味真逆のメリット・デメリットがある内視鏡対応ができると

状況に応じて、時にはそれらを組み合わせて色々な提案が可能になります。

 

しかし内視鏡が無いと

 

「吐きませんね。じゃ、切り(開腹手術)ましょう。」

(いやいや、ちょっと待ってよ。そんな簡単に言わないでよ・・・)

 

とか

 

「吐きませんね。じゃ、様子見て。」

(えっ!?それで大丈夫なの?)

 

みたいなことになり兼ねないので、何度もこのコラムでお伝えしていますが、内視鏡を備えている動物病院を把握しておきましょう。

 

 

 

 

・・・・・というわけで結局、最後はまた内視鏡礼賛みたいな話になってしまいましたが今回は催吐処置のお話でした。

このお話はpart2に続きます。

part2では主に無理やり吐かせるそのこと自体にリスクは無いの?

というオーナー様の疑問にお答えする予定です。

 

 

 

 

執筆者プロフィール

港北どうぶつ病院 院長

Hayato Arai

資格・所属

経歴

  • 麻布大学卒業

  • 平成14年4月〜

    横浜市内動物病院勤務

  • 平成17年1月〜

    横浜夜間動物病院(現・DVMsどうぶつ医療センター横浜)にて救急医療に従事

  • 平成20年3月〜

    横浜夜間動物病院 院長就任

  • 平成25年2月

    開業準備のため退職

  • 平成27年~

    港北どうぶつ病院 開業

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