誤飲コラム

鳥の骨の誤食は危険か!?安全か!?キチンと説明します。

鳥の骨は危険か?ネットの情報に溺れないために

動物の異物誤飲・誤食を語るうえで鳥の骨の誤食は横綱とまではいかないまでも大関クラスに良く出てくる事例です。ネット上には色々な情報が錯綜しており、オーナーの皆様もどれを信じたら良いのか困惑してしまうだろうと思ったので、ここでとりあげさせて頂きます。まずは私の思い出話から。

 

 

経験豊富な臨床医の間でも意見は分かれた

私が勤務していた夜間救急動物病院では月に一度症例検討会が実施されていました。多くの開業獣医師達が共同出資して立ち上げた病院のため、臨床経験豊富な出資病院の院長先生たちが多数出席して、夜間救急に実際に来院した症例を取り上げ、様々な角度から貴重なアドバイスを頂き、夜な夜な救急獣医療のレベルアップを図っていました。

ある晩の検討会で鳥の骨を誤食した症例が取り上げられました。ちょっと詳細までは覚えていないのですが、内視鏡を入れてみたが大きすぎて摘出できず、結局開腹手術をしたというような内容だったと思います。それに対して出席していたその地域で老舗大病院の院長先生が意見しました。

「そこまでする必要あったの?鳥の骨なんて放っておけば消化されちゃうじゃん」

 

「え?そうなの?」

と当時まだ救急医なりたてぺえぺえの私は鳥の骨は危険に決まっていると信じ込んでいたので、大変驚いたのを憶えています。他の出席者を見渡すと皆ちょっと腑に落ちないような顔をしつつ押し黙っていました。と言うのも、その意見を仰った院長先生がちょっとおっかない先生だったので、皆それに反対する意見を言い出しにくかったんだと思います。

しかしその静寂を破って、別のベテラン院長先生が「いや、鳥の骨は溶けないから正しい対応だったと思うよ」と意見しました。そこから二人の院長先生の議論は白熱。

前者の先生が

「誤食した翌日にX線撮影したら胃の中の骨がきれいに無くなっていた。実際のX線画像もある」

と言うと、後者の先生が

「私の経験では誤食一週間後にX線撮影したら全く溶けずに胃の中に骨が残っていた。画像もある。何度も嘔吐していたし、これ以上待つのは危険だと判断して開腹(手術)して摘出した」

と一歩も譲らず、若干険悪な雰囲気になったため、その場では明確な結論は出さず、後日実際のX線画像を持ち寄り改めて検討しました。実際の画像を見比べてみると仰る通り、どちらも誤食当日のX線画像では胃の中にクッキリと鳥の骨が写っていました。しかし片方は翌日のX線画像で骨はほぼ消失。もう片方は一週間後の日付にも関わらず、全く溶けずに胃の中に骨がクッキリと写っていました。

この一件からもお判りいただけるように、鳥の骨の誤食が危険か?そうではないか?問題についてハッキリと言えることは身も蓋もありませんが

 

「様々な要素により危険度は異なる」

 

ということだけです。

 

 

極私的鳥の骨徹底調査開始

さてさて、そこからなのですが、私にとってこの件は非常に印象深い出来事だったので、その後夜間救急に山ほど来院する鳥の骨誤食症例のオーナー様をことごとく質問責めにしました。

「大きさは?」

「誤食してから何分経つ?」

「噛み砕いた?丸飲み?」

このあたりの質問はいつもの通り。

 

「冷凍されてた?」

「焼いた?煮た?揚げた?」

「圧力鍋使った?」

このへんからオーナー様が怪訝な顔をし始めます。

 

「ブロイラー?それとも高級な地鶏?」

「どこのスーパーで買った?」

「ケン〇ッキーフライドチ〇ン?」

「ファミ〇キ?」

このへんになると「その質問関係あるんですか?」とちょっと怒り出す人もいたりしましたが、それでも心折れずに質問を浴びせ続け、更にはオーナー様に後日電話して、その後の経過を聞きまくった結果、データがどんどん蓄積されていきました。

 

現時点で私が鳥の骨誤食の症例を担当すると「この程度は消化されるから大丈夫」とか「これは内視鏡で摘出しないと危険だぞ」とか、データ集めの過程で身につけた感覚的にある程度予測はつきます。しかし「なんとなくの感覚」だけで生死に関わる医療的判断を決定する訳にはいかないので、しっかり検査もするし、オーナー様には「こんな危険性がある」「対応としてはこういうやり方とこういうやり方がある」「その場合のリスクは・・・」と丁寧にインフォームしたうえで最善の方法を協議していくようにしています。

 

 

夢の「鳥の骨危険度判定アプリ」の制作は可能か!?

このデータをもっと積み重ねていつの日か、いちいち獣医師が検査をしなくても愛犬が誤食をしたらスマホを取り出し、犬種や年齢等を入力すると「危険度:1 消化されるので問題ありません」とか「危険度:5 すぐに動物病院へ!」と判断してくれる異物誤飲・誤食解決アプリが作れたら喜ばれるだろうなぁなんて真剣に考えるのですが、現実的にはほぼ不可能だと思います。

なぜなら同じ犬種、同じ年齢でも消化能力に大きな差があるし、同じ個体でもその日の体調によって差が生じる可能性すらあります。そんな消化する側の不確定要素に加えて、消化される側の鳥の骨が、元々どの程度の骨密度で、どの程度調理の過程で脆くなり、どの程度噛み砕かれ、砕かれた先端は鋭利か? 等を正確にオーナー様が把握することは現実的には困難であることがお判り頂けるかと思います。

 

危険か安全か適切な判断をするために・・・

なので、もし鳥の骨を誤食してしまった場合、オーナー様にぜひお願いしたいのは、とにかく動物病院は受診して下さいということです。詳細にお話を伺い、検査して状態を把握することで、安全か危険かの判断材料は増え、適切な対処が出来る確率は格段に上がります。

逆に言えば、ろくに話も聞かず、検査もせずに「手術しないと死んじゃうよ」とか「放っておけば大丈夫」と言われた場合は、何を根拠にそう言うのか質問すべきだし、その質問がし辛いのであれば、別の病院でセカンドオピニオンを仰ぐことをお勧めしたいと思います。

 

 

 

執筆者プロフィール

港北どうぶつ病院 院長

Hayato Arai

資格・所属

経歴

  • 麻布大学卒業

  • 平成14年4月〜

    横浜市内動物病院勤務

  • 平成17年1月〜

    横浜夜間動物病院(現・DVMsどうぶつ医療センター横浜)にて救急医療に従事

  • 平成20年3月〜

    横浜夜間動物病院 院長就任

  • 平成25年2月

    開業準備のため退職

  • 平成27年~

    港北どうぶつ病院 開業

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