症例紹介
傷つけ・詰まる異物
犬/革製のリード

誤飲の詳細
ここでは特殊な異物誤飲症例や特殊な異物の摘出方法なども紹介していくつもりですが、今回の症例は特殊ではありません。流れだけ要約すると
誤飲した → 通常の催吐処置 → 吐き出した → 解決 → 良かった良かった。
以上です。
その意味では特殊ではありませんが、異物誤飲症例が沢山来院する当院で、どんな動物が何を飲み込んで来院し、どんなものなら吐かせれば出るのか? 出ないのか? 内視鏡が必要か? 開腹しないとダメか?等々そのあたりが気になる方も多いと思いますので、シリーズにして紹介していきたいと思います。以下、その第一回目です。
5才 ラブラドールの男の子です。
当院にて外耳炎の治療中で再診のためご自宅から当院まで車で30分ほどの距離を移動中にそれは起きました。オーナー様は、いつもヤンチャなのに今日は後部座席でおとなしくしているなぁと思いながら運転していたそうです。
いざ当院駐車場に到着。車から降ろそうとして愕然。確かに乗車時に装着していた革製のリードが金具の部分を残してほぼ丸々消えていたのです。
まさか!と思いつつもX線検査を実施すると、胃の中に細長い陰影が何重にも存在しています。
まさかまさか!と催吐処置を実施したところ三回の嘔吐に成功。一度目はほとんど泡しか出なかったのですが、二度目、三度目で出るわ出るわ大量のリードの破片。
出て来た破片を全て繋ぎ合わせてみた写真がこちら!
同居のラブラドールの子が同じリードをしていたので、それをお借りして並べて撮影しました。
写真の上がお借りしたリードで、下は吐かせて出てきたリードの破片を全てつなぎ合わせたもの(金具以外)です。
たった30分で丈夫な革製品をここまで細かく噛みちぎり、そのほぼ全てを丸飲みしてしまったということです。
もちろん全てのラブラドールがそれをやる訳ではありませんが、それが可能なポテンシャルは秘めているということです。
異物誤飲で来院されるオーナーの皆様は一様に「まさか!あんなものを!」「まさか!あんな一瞬で!」と仰います。
嘆いても後悔先に立たずですので、皆様も是非とも油断なく常に注意してお過ごし下さい。
結局この子はつなぎ合わせた破片がほぼ全て揃っていたのでもう問題は無いだろうと判断し、その日のうちに退院。その後、体調を崩すこともなく元気に過ごしているそうで一件落着。良かった良かった。
ところでここで皆様に質問です。
もしこの時に催吐処置をせずにそのまま待っていたらどうなっていたでしょうか?
金属やプラスティック等ではなく皮なので消化吸収される可能性はないのでしょうか?
だって、例えば焼き鳥の鶏皮なんかを与えてもちゃんと消化できる子はできるじゃないですか?
答え
ほぼ消化は不可能です。食べ物の皮と皮革製品とでは同じ動物の皮でも全く別物と思って頂いたほうが良いでしょう。過去に私は半年ほど前に飲み込んだ皮革製ハンドバッグの一部を内視鏡で摘出したことがあります。つまり半年間胃酸に晒され続けても消化されずに残っていたということです。
では消化は出来なかったとして、あれだけ細かく噛みちぎられているので、何もせずに待っていれば、詰まることなく便と一緒に排泄される可能性は無いのか?
答え
可能性としてはあると思いますがお勧めしません。量が多すぎるので、それらが束になって腸に入り込めば、腸の途中で詰まってしまう可能性が充分にあります。運よく破片一つずつが順番に腸を通過していけば全て便と一緒に出てくる可能性はありますが、消化されない硬い皮の破片が大量に通過した腸粘膜へのダメージも考えなくてはいけないし、それを祈って待っていたら何度も嘔吐し始めて、やっぱり詰まっちゃった・・・となった時にはもう腸の奥での出来事なので、そこから催吐処置をしても吐き出させることは出来ないし内視鏡も届きません。開腹手術しか手段が無くなります。その意味で早い段階で吐かせて解決した今回の当院での対応が最善であったと思います。
・・・と思いますが、ではもし誤飲したリードが今回の半分の量だったら? 1/4量だったら? 一かけらだったら? なんでもかんでも吐かせれば良いというものではありません。
何もせず様子を見ていれば便と一緒に出てきますよ。と言ってあげられる場合もあるし、最初から内視鏡を入れたほうが解決が早い場合もあります。その判断にマニュアルはありません。一症例ごとにその動物の体格や病歴等を念頭に置いてX線画像やエコー検査画像を吟味し、最適解を導き出す訳で、少しでも条件が異なれば選択肢や優先順位は大きく異なります。なのでオーナーの皆様にはインターネット上に書かれている一般論を鵜呑みにして判断することがないよう気を付けて頂きたいと思います。
執筆者プロフィール

港北どうぶつ病院 院長
新井 勇人Hayato Arai
資格・所属
- 獣医師免許番号 第41079
経歴
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麻布大学卒業
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平成14年4月〜
横浜市内動物病院勤務
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平成17年1月〜
横浜夜間動物病院(現・DVMsどうぶつ医療センター横浜)にて救急医療に従事
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平成20年3月〜
横浜夜間動物病院 院長就任
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平成25年2月
開業準備のため退職
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平成27年~
港北どうぶつ病院 開業