症例紹介

傷つけ・詰まる異物

犬/釣り針

誤飲の詳細

動物が危険な形状の異物を誤飲した場合、胃または腸にある異物を問題とするパターンが多いですが、そうではない例も色々存在します。今回はそんな一例を紹介します。

 

犬種はミニチュア・ダックスフンドで2才の男の子です。

その日の朝、オーナー様と一緒に釣りに出かけて、釣り場に落ちていた釣り糸を口に入れてしまったとのこと。慌ててオーナー様が口から出ている糸を引っ張ると、口の中に引っかかって苦労したけどなんとか取り上げることができたのですが、その糸を見ると何本かついている釣り針のうちの一本が無いとのことで来院されました。

 

針は元々無かったのか?

それとも体内に取り残されているのか?

 

このワンちゃんはほとんど症状無く元気に来院しました。

痛がっている様子も無いので釣り針は元々無かったのかな?

と思いつつも、もしものこともあるのでX線検査を実施したところ・・・

 

 

 

 

 

わかりますか?

 

 

 

 

 

のどの奥にクッキリと写っていました。

 

 

さて、ここからが人間の医療と獣医療の異なるところ。

人間なら「奥を観察するので、大きく口を開けて下さい」とお願いすれば、大抵の患者さんは協力的に従ってくれるでしょう。

しかし動物の場合、口を開けさせてくれるぐらいなら出来る子もいますが、そこから舌鉗子を口の中に突っ込んで舌を除けてその奥を覗き込む・・・なんてことをおとなしく許してくれることはほとんどありません。

 

というわけでオーナー様から同意をいただき、鎮静・麻酔下で喉の奥を観察することになりました。

 

 

鎮静剤で脱力した状態でもう一度、首を真っすぐに伸ばしてX線検査を実施。

 

鼻先から釣り針までの距離を測定します。

今回は内視鏡を使わないでも、長い鉗子でギリギリ届く距離と判明。

しかしパカッと口を開ければそこに釣り針が見える訳ではありません。

のどの奥の襞や軟骨を傷つけないようにかき分けながら奥へと進んでいくと・・・

目視できるギリギリ一番奥に釣り針が見えました!

やはり粘膜に刺さって先端半分は埋もれた状態です。

(※狭くて暗いのどの奥のため残念ながら刺さっている写真はありません)

 

慎重に長い鉗子を挿入して釣り針のお尻の部分を掴むことに成功。

 

さて、ここからです。

抜ける方向にただ引っぱっても釣り針は抜けません。なぜなら釣り針には「返し」といって、簡単に魚が逃げてしまわないための抜け難い仕組みがあるからです。

ではどうするか?

一つは引いてダメなら押してみな作戦で、あえて刺さる方向に押し込んでいくと、釣り針は曲がっているので半周して粘膜から先端が顔を出します。そこで先端部を掴んで引っ張ると「返し」の抵抗が無く粘膜の損傷は最小限で済みます。

この方法はポピュラーなのですが、今回は位置が深すぎて細かい操作が出来ず、実行できませんでした。

その場合は次の手段。押せないのならやっぱり引いてみな作戦なのですが、ただ闇雲に引けば「返し」のせいで粘膜を強く損傷します。そこで、文章で説明するのが難しいのですが、ダメージを最低限に抑える引き方や引く角度、引く前に針に対しての圧のかけ方等があるので、それを今回は実施しました。

 

その方法で無事引き抜くことに成功。出血はゼロではありませんが微量でした。

 

 

完全に止血したことを確認。その後、しっかりと鎮静・麻酔からの覚醒も確認してその日のうちに無事退院。

その後も元気に過ごしてくれています。

 

 

 

今回の症例報告で私が伝えたかったことをまとめると以下二つです。

・動物の異物誤飲というと吐かせるとか開腹手術とかの話が多いが、そうじゃなく解決するパターンも色々ある。

・針を飲み込んだかもしれない場合、痛がっていないから、症状が無いから、飲み込んでいないと決めつけるのは危険。

 

特に後者に関しては、自分ののどに釣り針が刺さっていたらと想像すると、私なら痛みと恐怖でとても冷静ではいられなさそうですが、ワンちゃんの場合は必ずしもそうではないということです。

「大丈夫そうだな」と思っても、心の片隅に「いや、やっぱりヤバいかな?」という想いを心の片隅に抱いたまま悶々と過ごすぐらいなら、それを確かな「大丈夫です!」に変えるために、自己判断ではなく動物病院でちゃんとX線検査を受けることを私は強くお勧めします。

 

行った処置

全身麻酔下で鉗子による咽喉頭部異物摘出

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