症例紹介
傷つけ・詰まる異物
犬/柿
誤飲の詳細
今回は季節ものなのでタイムリーな秋のうちにご紹介したかったのですが、冬になってしまいました。
11才のゴールデン・レトリーバーが干していた柿を種ごと食べてしまい2日経つが出てこない。今のところ嘔吐や下痢などの症状は無く元気だが(オーナー様が)心配になってきたとのことで御来院されました。
種ごとならば確かに消化困難な異物の範疇です。
でも小型犬の腸なら詰まる可能性もありますが、大型犬なら柿の種(お菓子じゃないですよ!)ぐらい問題無く通過するはず。
種の周りの果肉まで入れればそこそこのかさになりますが、果肉部分は放っておけば消化されそうなもの。
つまりそんなに危険性は高くないかな?
という見立てで無処置でお帰り頂く選択肢もありかと考えるほどでしたが、吐かせてみることに。
で見事吐き出してくれたものがこちら!
(吐物なのでモザイク処理しています。ご覧になるには画像をクリック)
大型犬の胃の中に二日間あったのに全く消化されず、ほぼそのままの果肉が固くなって出てきました。
大きさ的には大型犬で腸閉塞を起こしてもおかしくないレベル。
なので結果的には吐かせて大正解でした。
そう言えば子供のころに田舎のおばあちゃんに「柿を食べ過ぎるとお腹に石が出来るよ!」と言われたことがあったなぁと、ふと思い出して柿に関してネット検索してみたところ、なんと人間だと「柿胃石症」というちゃんとした病名があるそうで、なんでも柿の成分と胃酸が反応して石のように固い物質ができあがり、胃の出口を塞いだり、腸閉塞を起こしたりするそうです。
恥ずかしながら私は全然知りませんでしたし、おばあちゃんの話も根拠の無い田舎の伝承の類と思って聞く耳持たず、柿をバクバク食べていました。だって美味しいんだもん。
天国のおばあちゃん、ごめん。
まぁとにかく人間の胃酸も犬の胃酸も、そんなに大きな違いは無いので、犬でも柿胃石症が生じてもおかしくないでしょう。今回の柿も、もっと摘出が遅れればカチカチの柿胃石に変質していたのかもしれません。
ということで柿は要注意です。
しかし、よほどの大量摂取じゃなければ柿胃石症になることはないそうで、常識的な摂食では危険は少ないそうです。
犬も同様でしょうから、ちょっとぐらい食べても問題無いのかもしれません。
しかしその「ちょっと」が難しい。
例えばですが、一般成人の平均体重を60kgぐらいとして、小さなチワワの体重は3kgぐらい。
単純計算で1/20ですから、人間で危険な量の1/20の柿でも危険な可能性があるということです。
この感覚を見誤ると、あなたの愛するワンちゃんを思わぬ危険に陥れてしまうかもしれません。
というわけで私の意見を言わせて頂くと、柿は甘くてビタミン豊富な良い果物ではありますが、犬が必須で食べなければいけないものでは全くないので、基本的には与えないほうがよいし、犬の手(口?)の届くところには置いておかないほうがよいと思います。
本日は以上です。
執筆者プロフィール
港北どうぶつ病院 院長
新井 勇人Hayato Arai
資格・所属
- 獣医師免許番号 第41079
- 横浜市獣医師会所属
経歴
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麻布大学卒業
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平成14年4月〜
横浜市内動物病院勤務
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平成17年1月〜
横浜夜間動物病院(現・DVMsどうぶつ医療センター横浜)にて救急医療に従事
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平成20年3月〜
横浜夜間動物病院 院長就任
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平成25年2月
開業準備のため退職
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平成27年~
港北どうぶつ病院 開業