症例紹介
中毒を起こす異物
傷つけ・詰まる異物
犬/糖尿病治療薬
誤飲の詳細
今回は前回の点眼薬に引き続き、医薬品の誤飲です。
そして前回に引き続き、容器(包装)ごとなので、物理的異物であり、薬理的(中毒を起こす)異物でもあります。
飲み込んだのはジャヌビア錠というインスリンではないけど血糖値を落とす作用のある人間の糖尿病治療薬です。
これです。
それでは見ていきましょう。
オーナー様ご家族が服用しているものを誤飲したとのことで御来院。
動物の種類は1才齢のポメラニアンで体重約3kg。
誤飲したのは朝7時頃とのこと。来院時点で7:40ぐらいだったので、まだ1時間経っていません。
「飲み込んだのは間違いないですか?」
とお聞きすると、その瞬間は見ていないが、ご家族の話からすると可能性は高いとのこと。
早速X線検査を実施してみましたが、薬はどこにも写っていませんでした。
今回のように包装ごとでも、薬がX線検査で写ることはほとんどありません。
X線画像で見る限り胃の中は空っぽ。
しかしもし本当に誤飲したなら、まだ胃にある可能性は充分あります。
ということでまずは催吐処置を実施。
結果、すぐに嘔吐しましたが白い泡だけ。薬も包装も見当たりません。
包装ごと誤飲したのなら、既に溶けて無くなっていることは無い筈です。
実はこの錠剤の包装はサイズは大きくないですが要注意の異物です。
角が鋭利なので腸を通過する際に粘膜を深く傷つける可能性があります。
特に小型犬は腸が細いので中大型犬より危険性は増します。
とは言っても、確実に飲み込んでいるかどうかも分からない状況。
積極的に内視鏡検査に移行するかオーナー様と協議しました。
オーナー様もかなり迷われましたが、やっぱりこのままハッキリしないのは不安だということで内視鏡を入れてみることにしました。
実際に内視鏡を入れてみると、吐かせた直後なので胃の中は空っぽ。
空間全体を見渡しやすい状況でしたが、薬も包装も見当たりませんでした。
念のため、胃の奥の十二指腸の届く最奥まで入れてみましたが、やはり見当たりません。
ということで何もせずに内視鏡検査は終了。
ここで考えられる可能性は二つ。
1、包装された薬は既に十二指腸より奥に進んでしまった。
2、実は飲み込んでいなかった。
のどちらか。
ですが、私は1の可能性はほぼ無いと判断し「やっぱり飲み込んでないと思いますよ」とお伝えしました。
なぜそう判断したかと言うと、飲み込んでまだ時間が経過していないので、そんなに奥まで行ってしまう可能性は低いと考えたのと、小型犬の細い腸を鋭利な包装が通過したのであれば、通過時についた傷を内視鏡画像で確認できるはずですが、それが全く無かったからです。
「もう一度良く家の中を探してみて下さい。」
とオーナー様にお願いして、その日のうちに退院となりました。
後日そのオーナー様が「飲み込んだと思っていた薬、やっぱりありました」と教えてくれました。
結局誤飲はしていなかったということです。
今回のように、誤飲を疑い色々な処置をしたが実際には誤飲していなかったと後から判明するケースは時々あります。
そんなことが出来るだけ無いよう当院では日々最大限努力や工夫をしています。
しかしそれでも検査では検知できない異物は存在します。
その場合はオーナー様の言葉を信じて、危険を回避する提案をしないわけにはいきません。
一方で、今回結果的にはオーナー様の勘違いに基づいて、誤飲していないのに吐かせて内視鏡まで入れてしまったことになるのですが、このオーナー様を責める気にはなりません。
むしろ「誤飲しちゃった!」と察知してすぐに動物病院に駆け込む行動力は称賛すべきものです。
超危険なものを誤飲したのに「大丈夫かなと思って様子見てました」とか言って何日も放置して緊急状態になってやっと連れてくる人が時々いますが、そんな人よりはるかに動物想いな良いオーナー様だと思います。
しかし、そうであればこそ!
慌てて動物病院に駆け込むその前に!
本当に誤飲したのかどうか、しつこいぐらいに確認をしてからご来院頂ければなと切に願う次第です。
執筆者プロフィール
港北どうぶつ病院 院長
新井 勇人Hayato Arai
資格・所属
- 獣医師免許番号 第41079
- 横浜市獣医師会所属
経歴
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麻布大学卒業
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平成14年4月〜
横浜市内動物病院勤務
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平成17年1月〜
横浜夜間動物病院(現・DVMsどうぶつ医療センター横浜)にて救急医療に従事
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平成20年3月〜
横浜夜間動物病院 院長就任
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平成25年2月
開業準備のため退職
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平成27年~
港北どうぶつ病院 開業